2017年3月15日水曜日

姻族関係終了届

最近、ときどき「死後離婚」という言葉を耳にします。
配偶者が死亡すると婚姻関係が終了するから離婚はできないはずでは?と感じる人もいると思います。
どうやら、民法第728条第2項に基づいて戸籍法第96条の「姻族(いんぞく)関係終了届」を提出することを指すようです。
私の個人的な意見ですが、「死後離婚」という言葉はちょっと誤解を招きやすいかな、と思っています。
そこで、この「姻族関係終了届」について、少し解説をさせてください。

法律では、次のように定められています。

民法
第728条 姻族関係は、離婚によって終了する。
 ② 夫婦の一方が死亡した場合において、生存配偶者が姻族関係を終了させる意思を表示したときも、前項と同様とする。

戸籍法
第96条 民法第728条第2項の規定によって姻族関係を終了させる意思を表示しようとする者は、死亡した配偶者の氏名、本籍及び死亡の年月日を届書に記載して、その旨を届け出なければならない。

つまり、「姻族関係終了届」はその名の通り、生存配偶者が「姻族関係」を終了させるものであって、配偶者との婚姻関係を終了させるものではありません。
では、「姻族」とは何でしょうか。

民法
第725条 次に掲げるものは、親族とする。
1 六親等内の血族
2 配偶者
3 三親等内の姻族

「血族」とは、出生によって関係が生じる自然血族(実の両親、実の兄弟など)と、養子縁組によって関係が生じる法定血族(養親子など)のことをいいます。
それに対して「姻族」とは、自分の配偶者の血族(配偶者の両親など)と、自分の血族の配偶者(子の配偶者など)のことをいい、婚姻によって関係が発生します。

「三親等内の姻族」は親族ですから、姻族関係が終了するということは、法律上、親族ではなくなるということです。

ここでもう一度、民法第728条を見てください。
民法
第728条 姻族関係は、離婚によって終了する。
 ② 夫婦の一方が死亡した場合において、生存配偶者が姻族関係を終了させる意思を表示したときも、前項と同様とする。

第1項で、姻族関係は離婚によって終了することが定められています。
離婚をすれば元配偶者の血族は親族ではなくなる、というのはごく自然なことのように思います。

一方、第2項で、夫婦の一方が死亡した場合は、生存配偶者が姻族関係を終了させる意思を表示したときにのみ、姻族関係が終了することになっています。
つまり、生存配偶者が姻族関係を終了させる意思を表示しなければ、親族であり続けることになります。
これについては、さまざまな考え方があると思います。
長年親族として過ごしてきたんだから、引き続き親族であり続けるのは当然と思う人は多いでしょう。
でも、たとえば嫁姑問題に悩まされてきたお嫁さんであれば、夫が死んだあとも姑との関係が続くなんて耐えられない、という人もいるでしょう。
民法では、生存配偶者にだけ、姻族関係を続けるかどうかについての選択権を与えています。
法律上、死亡した配偶者の血族の同意や承諾は一切不要です。

「姻族関係終了届」によって終了するのは、あくまで、生存配偶者と死亡した配偶者の血族との姻族関係です。
それ以外の親族関係に、法的な影響は及びません。
死亡した配偶者から相続した財産を返還しなければならない、ということもありません。

では、「姻族関係終了届」によって何が変わるのでしょうか。
そもそも姻族間には、相続の権利はありません。
また、同居をしていなければ、特別な事情がある場合を除いて扶養義務もありません。
ですから、「姻族関係終了届」は、何があっても扶養義務を負わないようにするという意味もありますが、気持ちの整理の部分が大きいように思います。

民法
第730条 直系血族及び同居の親族は、互いに扶け合わなければならない。
第877条 直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養する義務がある。
② 家庭裁判所は、特別の事情があるときは、前項に規定する場合のほか、三親等内の親族間においても扶養の義務を負わせることができる。


「姻族関係終了届」は、離婚した場合と同様に姻族関係が終了するから、いわゆる「死後離婚」ということみたいです。

しかし、「死後離婚」というと、生前の夫婦の関係がうまくいっていなかったような印象を受けがちです。
生前の夫婦関係がうまくいってなかったから、配偶者の死後にその血族との縁を切りたい、というのもアリだと思います。
でも、夫婦関係が円満だった場合にも、「姻族関係終了届」を使っていいと思うのです。

司法書士試験の勉強をしているとき、予備校の講師の先生はこの制度について、「結婚といえば嫁入りが当たり前の時代に、若くして夫に先立たれたお嫁さんが、亡き夫の家を出て新たな人生を選ぶことができるようにするためにできた制度」というような説明をしていました。
いまはそんな時代ではありませんが、私には「死後離婚」よりこの先生の説明の方がしっくりきます。
だから、「死後離婚」という言葉より、「姻族関係終了届」という正式名称がもっと周知されたらいいなぁと思っています。